受け口とは下の写真のように上顎の歯と下顎の歯が逆にかんでしまっている状態です。
受け口は歯並びの問題だけではなく
「への字口」「しゃくれた顔」「三日月顔」といった
顔の形の問題につながるので非常に気になることですよね。
私は「受け口」については神経質です。
自分が写真のように顎が出ている顔つきをしているからです。
今ではもう受け入れていますが、 歯学生の頃は外科手術も考えるくらいに 悩んでいました。
受け口は遺伝することが多いのです。
長男が生れて、歯が生え始める時に「遺伝してくれるな!!」とばかりに
いつも注意深く見ていたものでした。
悲しいことに長男には遺伝していて、見事な受け口になってしまいました。
3才くらいになると、 鼻の下が少しくぼんでいて、顎がしゃくれていて、
横から見ると三日月顔の 典型的な反対咬合の人の顔つきになってしまいました。
「このままいけば私のような顔になってしまう」と考えた私は、
4才の終わりに長男の矯正を始めました。
最初の半年間は寝ている間だけの治療を行いました。
マウスピースを口に入れてそれと同時に
チンキャップという顎を引っ張る帽子も使いました。
これらの治療でだいたい治ってしまいましたが
更に治療効果をたかめるために24時間付けっぱなしのワイヤーの治療もおこないました。
ワイヤー治療も約半年位で終わりました。
合計約一年間の治療でしたが受け口は見事に治ってしまいました。
これらの治療はあくまで乳歯に対する治療だったので、
「永久歯がはえてくる時に再び受け口になるのではないか」と ずい分と心配しましたが 嬉しいことに永久歯はきれいにはえてきて 受け口にはなりませんでした。
一番心配していた三日月のようなしゃくれ顔も治ってしまいました。
10才
17才
上段の写真は10歳の時です。
下段の写真は17歳の時です。
歯並びにおいても、顔つきにおいても 十分に安心できる状態で成長してくれています。
結局一年間くらいの治療でしたが、
長男の反応は私の予想に反するものでした。
「おそらくものすごく嫌がるだろうな」と思っていたのですが
ほぼ全ての装置を嫌がる事はなかったです。
マウスピースは最初の慣れないうちは
朝起きたら枕元に転がっているという感じでしたが
段々と朝まで付けれるようになりました。
夏場の帽子は汗で蒸れてゴムと皮膚が当たるところを痒がっていましたが
それでも結局は朝まで普通に寝ていました。
気持ちの上でも「イヤイヤやる」という感じではなく
「ボク、前歯がひっくりかえっとうけんこれするとよね。
パパみたいに顎が出たらいかんもんね」
という言葉が出るくらい、5才なりに前向きなモチベーションを持っていました。
ワイヤーについても嫌がるだろうなと思っていました。
それまでは寝るときだけつけていればよかったのに、
今度は一日中ついていて、なおかつ他人の目に分かる訳ですから。
親の立場からすると我が子がものすごく不憫に思えて
すごく悲しい気持ちになりましたが、
当の本人は意外にも、
「これダイヤモンドみたいやね、カッコイイ。友達に見せろう」
と明るい感情を持ってくれました。
この様に書くと私の長男はすごく聞き訳が良くて、素直な子のように思えますが 実はすごく神経質で癇癪持ちな性格をしているのです。 ですので私は
「この子でこれだけ出来るなら、これはどの患者さんでも絶対できるな」
と思ったものでした。
このような私自身の顔つき、そして長男の治療の経験をから、 私は子どもの受け口は早期に治してあげて、
なるべく顎がしゃくれた三日月顔にならないような成長方向に乗せてあげたいと考えています。
一人の親としても、また歯科医師としてもそう思っています。
いったいどうすればいいの?現実には近くの歯科医師さんで相談したら、
「今はまだ、様子を見ていて良い」
「永久歯になってからやったほうが良い」
「将来手術を考えた方が良い」
と言われてこともある方も多くいらっしゃるようです。
その反面、私のように「早期に治療に入ったほうが良い」という歯科医師もいます。
また、
「顎を手で押してたら良い」
「アイスクリームのへらでおしたら治った」
「乳歯のうちから治療をしていた方が良い」
「顎を押さえる帽子をかぶって寝たほうがいい、よくない」
「結局手術になるので、成長が終わるまで様子をみたほうがいい」
など、子育てママのネットワークでの様々な噂や経験談も色々とあるようです。
加えて、インターネット上での豊富な情報もあいまって
「いったいどうすればいいの?」
と真剣に悩まれているお父さん、お母さんが多くいらっしゃいます。
受け口の治療のスタート時期の解釈は歯科医師の中でも大きく異なっていて それについてディスカッションする歯科医師の意見を集めたものが 厚い本になっている位なんです。 これには大きく理由が二つあります。
一つ目の理由
一つ目の理由は簡単です。
「自然に治ってしまうことがあるから」
です。 乳歯の受け口は永久歯にはえかわる時に勝手に治ってしまうことがあるのです。
実際、下の写真の受け口の患者さんは永久歯との生え変わりの時に自然と治ってしまいました。
この可能性に重きを置いた場合はやはり
「様子を見てみましょう」
という言葉が歯科医師から出てきます。
実際私もそうすることもあります。
二つ目の理由
これは少し難しいですが・・・
「早くに治してしまっても、後で再び受け口になることがあるから」
です。
いくら早期に矯正をしても、身長が伸びるのと同じタイミングで 下顎の骨が大きくなり、
きれいに咬んでいた前歯が再び逆さまになることがあるのです。
上の写真は4歳から始めて、5歳で一度よくなりましたが、6歳で後戻りしました。
下の写真は11歳で始めて15歳で一度よくなりましたが、一か月後には後戻りしました。
この二つの理由から、受け口の治療は色々な先生が色々な考え方に基いて行っています。
ですので私は少なくとも二つ、出来れば三つの歯科医師さんに行って
「この先生の言ってること、考え方が一番自分に合っている」
と思えるところで、 治療を受けるべきだと思います。
特に骨格の問題にまで及ぶような症状の場合、
成長期が終わる18歳くらいまでの長いお付き合いになることもあります。
「この先生とじっくり治していきたい」と思えるような先生と出会えるといいですね。